──今、世界的にMBTI診断が流行しています。この流行について、どのようにお考えでしょうか。もともとMBTIは、ユングが提唱した心理学的類型に基づく性格検査です。今流行している16タイプに分類する性格診断はMBTIを脚色したもので、科学的根拠や正当性はありません。最初に「MBTIだ」と言っていたので、MBTIとして認識されてしまった。本当はMBTIにも著作権があるのですが、MBTIにそっくりなフィードバックを作ってあたかもMBTIのように見せるのは結構悪質ですよね。日本MBTI協会でも警鐘を鳴らしています。
──「私はこの性格」と自己紹介ツールのようにMBTIを認識している人も多いですよね。いつまでこれが続くのだろうとは思いますよね。ただ、悪いものはいずれ廃れるというのが宿命ですので、いつかは終わるだろうと予想しています。でもなくなったらまた新しいものが出てきて流行ると思います。
昔からそういうのってたくさんあるんですよ。血液型診断や右脳型・左脳型とか……科学的根拠や裏付けがないものは、大きな枠組みで「疑似科学」という扱いになります。血液型診断はもともと心理学で研究されていたものではあるのですが、あとからこれはダメだと撤回されたんです。でも面白いと世間で流行ってしまう。そうするとなかなか止められないですよね。
韓国では日本よりはるかにこの偽MBTIが流行っています。MBTIを重視して再婚相手を選ぶ女性が30%以上いるとか、バイトの募集要項にMBTIのこのタイプは応募しないくださいと書かれているとか、もうかなり差別的ですよね。友人や結婚相手を選ぶときにMBTIを使うという若い人も多くいます。採用場面でもMBTIの記入欄を設けている企業が一定数いて、人事に使っていると。日本でも「嫌われるMBTIランキング」みたいなものが登場していて、いじめや差別の新しい温床にならないかと心配です。韓国の有名な科学者がこのMBTIは科学的に検証されたものではないと否定したのですが、いまだに廃れる様子がありません。
──アメリカの学生がMBTIの性格タイプが書かれたTシャツを着ているのも見ました。それがコミュニケーションのきっかけになればいいですけど、それでも人間関係に弊害が出る場合もありますよね。「面白い」で止まればいいんですよ。最初のトークで止まればいいけど、「あいつは◯◯タイプだから付き合わないでおこう」となると、これはダメですよね。そこに壁があると思います。
──自己分析に役立てたいのなら、ビッグファイブ理論などを用いたちゃんとした性格診断をやったほうがいいということですよね。ビッグファイブのほうが新しくてまだマシですよね。実は本来のMBTI自体も、1960年代頃に作られたかなり古いものなので測定の精度が低く、妥当性や信頼性も低い。心理学の世界の中では廃れていったものなんです。
統計学も進歩していますから、これからさらに発展していくと、また20年後くらいに別の理論が登場してもおかしくはありません。だからビッグファイブもあくまで現時点ではこれがベターだということです。